元エンジニアPMのプロダクトマネージャーお役立ち情報

スタートアップから大規模プロダクトまで担当している元エンジニアの筆者が、事業開発・プロダクトマネジメントに役立つ情報を発信します

SaaSの年割プランは月次解約率をベースに価格戦略すべし

一般的なSaaSプロダクトやサブスクリプションサービスでは、月額プランと年間プラン2つの支払手段を提供していることが多いです。年割の方がお得になり、よく使うサービスであれば年間で契約している方も多くいらっしゃるのではないでしょうか?例えばNotionの個人プランを例にしてみます。

www.notion.so

Notionを年間プランで契約した場合96$支払う必要がありますが、月々に直すと8$支払えば良いという計算になります。月額支払いを選択すると、毎月10%支払う必要があり年間120$支払うことになります。 ホリゾンタルに提供しているサービスの中で特にDevelopment/Designに特化したツールでは、70%近くのプロダクトが年割プランを導入しているといった調査結果もあります。ホリゾンタルのSaaSでは平均して15~20%の割引率を適応した年間プランを出しているという結果もあります。今回のNotionであれば実に20%の割引率で提供していることとなります。 国内SaaS 400以上の料金ページを調べてみた -価格掲載の有無や年間契約による割引などを徹底解剖- 丨Perspective丨One Capital, Inc

ユーザー視点では、年間プランを選択するほうが単純に24$もお得といった利点がありますし、また毎月10$というベース金額が提示された上で月々8$支払えば良いこの見せ方は、無意識に割安と感じる心理学効果も働きます。アンカリング効果といいますが、はじめに提示された情報を基準点(アンカー)とし、ほかの情報を評価・判断する心理学的な現象です。 認知バイアスの一種で、はじめに提示された情報が、あとの判断に大きな影響を与えます。今回でいうとユーザーは無意識に10$がアンカーとなっており、年割プランの方が割安感を感じやすくなる仕掛けとなっています。

一見ユーザーメリットが大きく、事業者にとっては売上毀損に繋がってしまうのでは?と思う年割プランですが、実は事業者にとってメリットが大きい設計にすることが可能です。今日は年割プランを設計する上で重要な価格戦略について書いていこうと思います。

価格戦略時は、予想される月次解約率を基準に考える

ポイントとなるのは、ユーザーが毎月どれくらい解約しているのか?になります。 例えばあるプロダクトが毎月1万人加入するとします。このとき月次解約率が4%であれば12ヶ月後どれくらい残っているか?を考えていきます。

経過月 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
アカウント数 10,000 9,600 9,216 8,847 8,493 8,153 7,827 7,514 7,213 6,924 6,647 6,381
解約数 400 384 369 354 340 326 313 301 289 277 266 255

毎月きれいに解約率が4%になるか?は怪しいところですが、獲得したアカウントは、徐々に減少していくため月に発生する売上が変化していくことがわかると思います。
月額1000円のプロダクトのケースの場合、年間で得られる売上は96,815,000円となり、1アカウントに割り戻すと9,681円ですね。 仮にこのプロダクトを月々10%オフとし、年間10,800円で販売しても事業者にとってはお得になるんですね。 仮にNotionのように20%オフにすると9600円のため、想定ARRがほとんど変わらなくなります。

想定ARRと比較して、割引率を決定する

もちろん月次解約率はCSや各種施策により、変動していきますし、初月無料など各種施策がある場合計算式は複雑になっていきますが基本的には今運用しているプロダクトの解約率から予想されるARRを上回るように割引率を設計することで、より収益を拡大することができます。
ユーザーが解約することはどうしても避けることができないですし、解約率の改善施策は限界があります。もし月次解約率が高いプロダクトを運用しているのであれば、割引率を大きくした年間プランを提供することで、収益性を改善することができるかもしれません。